企業に対してハッカー集団の脅迫が行われ、それに伴う巨額の懸賞金が設定される事態が発生しています。企業側は法的責任を免れるための但し書きをつけていますが、この金額は「人を殺せる」ものです。表向きはどうであれ、これは「攻勢防御」の誘発を狙ったものでしょう。

この結果何が起こるであろうかという予測を立ててみました。世界は、驚くほど「攻殻機動隊」の予測に沿って動いています。

攻殻機動隊

1989年より連載開始された、士郎正宗の作品です。電脳化、義体化、AI、ネットワーク技術が普及した近未来の日本を描きます。時代設定は主に2029年以降です。

主人公「草薙素子」は全身義体サイボーグで、公安9課の現場指揮官。荒巻大輔を課長とする、バトー、トグサなどで構成されたチームがテロ、サイバー犯罪、公安事件に立ち向かいます。詳しくは原作およびアニメをどうぞ。

世界線は攻殻機動隊に追いついたか?

サイバー空間において、是、と判断します。生体系(電脳化、義体化)は全くですが、ドローンはタチコマ的存在になりそうですし、AIはいつ自我を持っても不自然ではありません。時代設定が2029年であることを考えれば3年後? 人間の自我と同じとは言いませんが、ブレーキが存在しないこの世界において、社会が自我と判断せざるを得ないAIは登場するでしょう。

その時何が起こるか。AIによる戦争、少なくとも公安9課が登場しうる法律/時代背景/状況は完全に揃っています。物理的な事件になるかは別として、サイバー空間上で起こりうる事態の予測は、攻殻機動隊を一読すればだいたい理解できます。ネットワーク社会における犯罪、監視、国家権力。AIによる情報戦と攻勢的サイバー防御。黒幕がいなくても巨額の報奨金による成功体験から生まれうる、非合法境界組織や集団現象。人間・AI・国家・犯罪がネットワーク上で混ざり合う社会。攻殻機動隊の世界が近づいています。

公安9課だけが足りない

一方で、現実に足りていない要素は、「公安9課」です。社会はAIエージェントの攻撃に晒され、企業は自衛のために懸賞金を設定し、それにより非合法組織の躍進が予想されるにもかかわらず、その存在を取り締まるための攻勢組織の立ち上がりが追いついていません。

少なくとも、企業の懸賞金という方向性は、はっきり言って攻殻機動隊の世界より危険を伴っていると考えます。懸賞金では事態を正常に終端させることができない。この懸賞金が万が一成功しようものなら、その成功体験はより多くの懸賞金を呼び込み、誰も責任を持たないまま攻勢防御の応酬だけが激化する未来が予想されます。

肝心の公安については能動的サイバー防御法が今月施行され、国がアクセス・無害化を行えるようになりました。9課の萌芽と言ってよいでしょう。しかしその守備範囲は基幹インフラに限られ、一般企業への脅迫は対象外です。9課が守らない場所で、企業は懸賞金という自前の攻勢防御に手を伸ばしました。

そして彼らは訪れる

今回の事態が収束したあとにこそ、本当の危機が待ち受けているのではないでしょうか。関係者はその先を見通さないまま、安易な解決策に飛びついてしまったように思えます。公安9課なき世界に笑い男たちが訪れないことを、切に願います。